新型コロナウイルス検査(プールPCR法と抗原定量検査)の検出感度比較
今回は珍しく本業の事を記事にしています。
注:この記事は査読を受けていない独自データに基づいて記載しています。また、検査自体の検討を報告しているだけですので、医学的な基準などについては医師の判断になります。
2022年1月現在、新型コロナウイルス感染症の拡大が止まりません。勤めている職場でも連日新型コロナウイルスPCR検査に追われています。つい4か月前にもコロナで忙しくなっていたので、小康状態の間に対策は立てていましたが今回の波は予想をはるかに超える大波です。
医療従事者は濃厚接触者であっても、一定の条件を満たせば業務前の検査で陰性を確認しながら医療に従事することが可能となっていますが、正直、職場にはそれだけのPCR検査を実施できるリソース(人・機械)がありません。そのため、プールPCR検査(職場内での一定条件を満たした場合)も候補に上がっていますが、プールPCR検査は数人分をまとめて検査するためどうしても検出感度は低くなります。
新型コロナウイルス検査の中でも、抗原定量検査はPCR検査に次いで感度がいい検査になりますがプールPCR検査と1検体での抗原定量検査(個別抗原定量検査)の検出感度を比較した文献はみつかりませんでした。
また、PCR検査は使っている機器や試薬(前処理含む)によって検出感度に差があるため、各自が使っている検出系を評価しておく必要があります。そのため今回、プールPCR検査と個別抗原定量検査の検出感度比較として、ウイルス浮遊液の希釈系列を使った検討を行いました。
試料・方法
元試料は患者検体由来のウイルス浮遊液を使用し、個別PCR検査のCt値から100倍希釈した試料を原倍として、生理食塩水の4倍希釈系列を1024倍(ウイルス浮遊液からは102,400倍希釈)まで作成し、測定試料としました。
使用機器・試薬では、抗原定量検査はルミパルスG600Ⅱとルミパルス SARS-CoV-2 Ag(ともに富士レビオ株式会社)、PCR検査はAutoAmpとAmpdirect™ 2019-nCoV検出キット(島津製作所)を使用しました。
希釈系列を4倍希釈系列にした理由は、AutoAmpが4検体測定のため、プール法の検体数は陽性時の確認検査を考えて4検体プールの想定です。
仮定
個別抗原定量検査とプールPCR検査の検出感度が同じの場合
PCR検査が1管高い希釈倍率まで陽性(例:PCR検査は256倍希釈まで陽性、抗原定量検査は64倍希釈陽性・256倍希釈陰性、2管差は無い)。
個別抗原定量検査よりもプールPCR検査の方が検出感度が高い場合
PCR検査の結果が2管以上高い希釈倍率まで陽性。
プールPCR検査よりも抗原定量検査の方が検出感度が高い場合
抗原定量検査とPCR検査が同じ希釈倍率まで陽性。
結果
検査方法 | 原倍 | 4倍希釈 | 16倍希釈 | 64倍希釈 | 256倍希釈 | 1024倍希釈 |
---|---|---|---|---|---|---|
抗原定量検査 | 陽性 | 陽性 | 陽性 | 陽性 | 陰性 | NT |
PCR検査 | NT | NT | 陽性 | 陽性 | 陽性 | 陽性 |
4検体プール PCR検査は1024倍希釈でも陽性でしたが個別抗原定量検査は256倍希釈では陰性となり、プールPCR検査の方が検出感度は高くなっていました。
また、1024倍希釈の増幅曲線と以前実施した予備実験の増幅曲線の比較から、1024倍希釈検体のウイルス量は5 Copy/test以上、10 Copy/test未満となりました。過大評価を避けるため10 Copy/testで計算した原倍のウイルス量は約2×10^6 Copy/mLでした。
希釈系列のウイルス量(Copy/mL)
原倍 | 4倍希釈 | 16倍希釈 | 64倍希釈 | 256倍希釈 | 1024倍希釈 |
---|---|---|---|---|---|
2×10^6 | 5×10^5 | 1.3×10^5 | 3.2×10^4 | 8×10^3 | 2×10^3 |
考察
新型コロナウイルス検査を比較した多くの資料ではPCR検査の単位はCopy/test、抗原定量検査の単位はpg/mLで報告されており、検体に含まれるのウイルス量で比較した資料は見つかりません。実際の現場では測定する検体(含まれるウイルス量)に対する検出感度を比較した資料が欲しいと思う事が多いのですが、PCR検査では使っている機器や試薬・前処理方法によって最低検出感度が変わるため必要に応じて各自でデータ取りが必要になります。
さらに、現在新型コロナウイルス感染症が拡大している状況で診断のための検査だけでなく、医療提供体制を維持するための検査も必要となっています。特に、中小規模の医療機関では検査数が増大しても機器や人員を増やす事は難しいため、工夫しながらスループットを向上させないといけません。
下記サイトは流行初期のころの記事ですが現在でも同じ問題は起きています。
今回、希釈系列の測定結果から4検体プールPCR検査は個別抗原定量検査よりも検出感度が高い事がわかったため、臨床の必要に応じて新型コロナウイルス検査の選択肢を増やすことに役立つと思います。同等の検出感度であれば個別抗原定量検査のスループットが一番高いのですが、試薬の期限が短く中小規模の医療機関での長期的な備えには向いていないため、使用期限の長いPCR試薬を多めに確保してスループット向上の手法を取ることが現実的な対策だと思われます。
また、今回使用したAutoAmpとAmpdirect™ 2019-nCoV検出キットは1Step、Direct PCRのため検体前処理の影響を受けず、実際の検体に含まれているウイルス量に近い測定結果が得られると考えられます。
測定原理が異なるためPCR検査と抗原定量検査の直接比較は難しく、実際の使用機器との比較は自分達で実施する必要がありました。今回、大雑把な計算しかできていませんが、今までの報告通り抗原定量検査では10^4 Copy/mLオーダーの検出感度(1~2×10^4 Copy/mLが0.67 pg/mLに相当?)、4検体プールPCR検査では4~8×10^3 Copy/mL、個別PCR検査では1~2 Copy/mLオーダーの検出感度(参考:抗原定性検査は10^5~10^6 Copy/mL)となり、Copy/mLでの計算ができたことから他のPCR検査機器との比較も行いやすくなりました。
いつまで検査が必要になるのかは誰もわかりませんが、重症病棟の利用率だけが医療提供体制の指標ではありません。医療提供体制を保つための支援として、検査の手法を効率と便益から客観的に評価したうえで上手に使う必要があると考えています。
正直、論文にできるデータ数も無いためただの内部評価の報告になりますが、少しでもどなたかの参考になれば幸いと思っています。
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